大阪高等裁判所 昭和57年(ツ)15号 判決 1983年3月23日
上告人 幡新守也
右訴訟代理人弁護士 松本正一
被上告人 株式会社ナンバ電機工業
右代表者代表取締役 難波英夫
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人松本正一の上告理由第一点について
甲が金銭貸付の方法として乙に小切手を振出交付した場合、振出人である甲が将来小切手金の支払をすることを前提としており、時効によって甲の小切手金支払義務が消滅する場合は、別段の合意等特別の事情がない限り、甲が乙に小切手金の支払をすることはなく、従って、乙が第三者から当該小切手の割引を受けていたとしても、甲が乙に金銭を支払ったといえないから、甲が乙に小切手を振出交付したときに、右小切手金支払義務の消滅を解除条件として甲乙間に消費貸借契約が成立すると解すべきであり、これと同旨の原審の判断は正当である。指摘の大審院大正一四年九月二四日の判決は、時効によって振出人の手形金支払義務が消滅する場合の事案ではなく、右の場合に、手形の受取人が割引によって金銭を受取ったときに、振出人と受取人間に無条件で消費貸借契約が成立するか否かについては何ら判断を示していない。従って、所論の点に関する原審の判断は右大審院の判決に反しない。また、指摘の大審院大正六年七月五日、昭和二年三月三日及び昭和八年一一月二一日の各判決は右争点と直接の関係はなく、本件に適切でない。
同第二点について
原審は、振出人の小切手金支払義務が消滅することを解除条件としている理由として、振出人において将来小切手金の支払があることを前提として金銭消費貸借契約が成立することを判示しており、原判決に何ら理由不備の違法はない。論旨は採用できない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小西勝 裁判官 青木敏行 吉岡浩)
<以下省略>